FEATURE

ハイレゾ配信も準備中

MUSIC/SLASH(エムスラ)は
オーディオファンの救世主になれるか。
代表・谷田光晴氏インタビュー

2020年09月01日
インタビュー:永井光晴
記事協力:音元出版


1回かぎりの配信にこだわっているのは、音やニュアンスが違うから

─── デジタル化された音声データをコピーしたものは、データとしては全く同じはずなのに、音が変わるという話があります。

谷田:エムスラが一回かぎりの配信にこだわっている理由は、1回限りの音楽ライブ配信の音と、再配信(聞き逃し配信)の音が違うということもあります。ただしその理由は、おそらくデータの数値的な変動とは別の、視聴者側の集中力の違いにあるのではないかと思ったりもしています。

この話は音楽エンジニアの人たちはわかってくれる人は結構多いんです。「そこにこだわってくれる配信なら」といってくれるエンジニアの中には、「それなら俺たちの持てる技術で、エムスラという小屋(ライブ空間)を鳴らしてやるぜ」と、エンジニア魂に火が付いてくださる方もいる。


本来、ライブは「一期一会」。準備時間も含めて楽しむ

─── ちなみに「見逃し配信」がなかったことに関して、クレームなどはありましたか。

谷田:それなりに問い合わせがあったことは確かですが、全体の1%に満たないくらいです。それより、配信翌日にツイートなどを追いかけて観察してみると、ライブの余韻に浸っている人が多い。これは、これまでの配信にはありえなかった。

なぜかというと、その配信を観るためにリスナーたちも努力されているんです。再生環境を試してみたり、「この一回かぎりのライブ配信を絶対見逃してなるものか」と自身の当日スケジュールを調整したりしてくださりました。集中力をもって聴いてもらえる環境を作るのがエムスラです。だから、アーティストも本気で向き合えるのです。

─── 本来ライブは「一期一会」ですからね。

谷田:いつでも「3回は観られます」…とかそんなことだと、じゃあアーティストも3回やり直していいですか、という話にもなります。「さっきのは失敗したんで3回ライブします」なんて言いません。いつの日もアーティストにとってライブは真剣勝負です。

私たちが大事にしたかったのは、この時間も含めて楽しんでもらう、そういったことを考えてやってきました。配信が本当のライブとは同じにはならないとしても、同じ感覚にかぎりなく近づけていくことはできるはずです。

オリジナルをフィジカルな空間においてリアルタイムに経験したことを「体験」とするならば、「体感」は、その記憶や感覚を思い起こして感じること。かつて自分が経験したことのある「フィジカルな体験」の記憶を呼び起こすことができる装置として、デジタル再生機器がある。

しょせんデジタル配信というのは「体感」でしかない。「体験」を越えられない。でも「体験」に近づけるために、たとえば1日のスケジュールを調整してライブに行ったときと同じような生活スタイルを送ることで、より「体感」が「体験」に近づいていく。これが次の新しいエムスラ体験の入口になる。「1回限りの配信」というのは、そこを大事にしたかった。

『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』2018年3月京都の老舗ライヴハウス、拾得(じっとく)でのライブより。Photo by 濵田志野

DA変換の精度が、エムスラの高音質再生の要点

─── オーディオファンに最適な再生環境について、どう考えていますか?

谷田:私からすると一言、「オーディオファンの皆様にはDAコンバーターでいいものを用意してください」となります。

私たちはデジタルでお届けするところまでを徹底的に追求します。そのあとの再生環境で最高のパフォーマンスが出せるかどうかというのは、皆さんのほうがよく分かっていらっしゃるのではないでしょうか。DAコンバーターの精度が劣ると、DA変換でだいぶロスしますので、コンピューターからDA変換するための機器で良いものをご用意いただくのがいいと思います。

私たちでもDAコンバーターは、ひと通り試しています。たとえば検証済みの機器では、プリズムサウンド、RME、DCSなどがあります。いずれも10万円~数百万円する高価な機器ですが、私たちの中ではそのあたりのレベルで検証しています。オーディオ機器で鳴らしたい人は単体のDAコンバーターや、ヘッドホンで聴く人もDAコンバーター付きのヘッドホンアンプが必要になってくるでしょう。